農業で生計を立てている農家の収入に関する疑問に答えるために、農業水産省の統計データを基に全国的な農家の年収、利益、および時給に関する目安を概算してみましたのでレポートします。
農業経営者は自営業、自営業の利益の考え方
そもそも、農業を営んでいる農家には、サラリーマンのように明確な年収は存在しません。農業法人として企業のような組織として経営している農家の方は、年間報酬あるいは月給制を採用しているかもしれませんが、自営業として農業を営んでいる場合は、文字通り自営業者になりますので、収入の概念を明確にするのは難しいかもしれません。
自営業として収入を考える場合、年間売上(収入)から諸費用(農業資材や肥料など)を差し引いて、年間利益が計算されます。ただし、当然この利益を計算する場合、自分の人件費(会社では給料に相当)は差し引かれていません。結果的に、年間利益に当たる金額が自分の給料(可処分所得)と考えられます。
農水省の統計データから分かる農業の平均収入と平均利益の目安は?
毎年、農水省が農家の所得に関する統計データをまとめ公表しています。この統計データの元データがどのようなもので、どのように計算されたものかは、公表されていますが、必ずしも実際の農家の現状を示しているかは定かではありません。とは言っても、現状では、その他の統計データがないため最も信頼性の高いデータと思われますので、農水省の統計データを使用して、農家の収入についての目安を洗い出そうともいます。
2014年(平成26年)の統計データを元に農業の種別(作物別)ごとに、農家(1経営体)あたりの売上(農業粗収益)、諸費用(農業経営費)、利益(農業所得)に関するデータをまとめてみました。
米・稲作(水田作経営)農家の年間収入と年間利益
まず、米・稲作(水田作経営)農家の場合は、年間売上が約222万円、諸費用が196万円、利益が27万円というのが現状でした。年間27万円だけで、どのように生活しているのか、と思われているかもしれませんが、これらの農家の中には、必ずしも専業農家だけではなく、農水省が定義した「農業の経営体」に相当する場合は、兼業農家も含まれている上に、その他の種別の作物や林業などを副業としている場合も含まれると考えられますので、このデータだけで農家の収入は低いというように、一概には断定できません。
畑作経営の農家の年間収入と年間利益
それでは、次に、畑作経営の農家の収入についてですが、年間売上(農業粗収益)は808万円で、諸費用(農業経営費)は562万円で、利益(農業所得)は246万円でした。畑作経営で栽培される作物は主に穀物で、具体的には、麦や大豆や馬鈴薯などになります。専業農家の場合は、稲作農家よりも畑作経営の農家の方が、年間売上額も利益額も随分多くなっていることが分かります。
最後に、野菜作・果樹作・花卉作経営の農家の収入についてですが、下記のように細分化されて収入データが示されています。
- 露地野菜作
- 施設野菜作
- 果樹作
- 露地花卉作
- 施設花卉作
露地とは野外での耕作であるのに対して、施設とはハウス栽培での耕作です。上記のカテゴリーの中で、最も農家の絶対数が多いと思われる、露地野菜作と施設野菜作についてデータを見てみましょう。
ハウス栽培農家の年収は露地野菜農家の2倍
露地野菜作の農家の年間売上は520万円で、諸費用は334万円で、年間利益は186万円でした。それに対して、施設野菜作の農家の年間売上は1,128万円で、諸費用は705万円で、年間利益は424万円でした。露地野菜農家とハウス栽培野菜農家では、これだけ金額に差が出ているのは、農業規模の違いが原因だということが容易に予測できます。一方、利益率を比べても、おおむね35%と37%となり、それ程大きな違いがあるわけではありません。
結論
以上の統計データの検証より分かる通り、農家の収入は、どうなのかという疑問には、一概に、高いとか低いとか断定できるわけではありません。というのも、農家の耕作面積などの農業規模により全く異なるだけではなく、どのような農作物を、どのような形態(露地またはハウス栽培など)で農業を経営するのかによっても全く異なります。
結論として、農家の収入や利益は、各農家の農業に対する考え方一つで変わると言えましょう。とは言っても、上記の農家の1経営体とは、雇用しているアルバイトなどがいる場合は、農業経営費として諸費用として計上されていますが、例えば、妻と2人で農業を営んでいる場合は、2人分の所得と考えるべきでしょう。そう考えると、一般的な会社員の年収と比べると低いものと考えられるかもしれません。